トレーニングでは試合の局面を再現したり求めるアクションを集中的に発生させたりするメニューを行い、特定のテーマや課題の改善に取り組んでいきます。今の時代では熱意や学ぶ姿勢があれば必要とするさまざまな練習メニューの情報を入手できますが、メニューをそのままコピーするだけでは十分ではありません。メニューをトレーニングするチームや選手にとって最適なものにするためにはオーガナイズやコーチングの質も重要となります。
オーガナイズの変更はトレーニングの効率を上げたり、チームや選手の習熟度に合った難易度に調整したりすることができます。また、制限ルールをうまく利用することにより特定の状況を増やしたり自然と新たな選択肢に導いたりすることも可能です。逆に、オーガナイズ次第では課題となるアクションが起こらず、時には全く別のテーマに取り組んでしまう可能性もあります。どのようなオーガナイズが効率や難易度、課題の改善や成長につながるでしょうか?
グループ分けで待ち時間を減らす
20人くらいの子どもが1列に並んでシュートの順番を待っているシーンをたまに見かけて時間がもったいないと感じることがあります。待ち時間が長すぎて1人あたりのアクション回数やボールを触る時間が減ってしまいます。20人1列よりも10人2列、5人4列で行うほうが1人あたりのアクションの回数は増えます。ドリブルやパスの練習でも同じです。
シュート練習などで1つのゴールしかなければ、10人はシュート練習、他の10人はパスなど別メニューを行い、時間でメニューを交代したほうが両グループとも効率的に課題に取り組むことができるでしょう。限られた時間を有効に使いましょう!
異なるテクニックを組み合わせる
小さな子どもはまず自分とボールの関係であるドリブルをメインに学んでいきます。しかし、試合ではドリブルで始まりドリブルで終わりではありません。ドリブルの前にボールをコントロールをしたり、ドリブルの後にはシュートやパスを行います。他のテクニックと組み合わせたメニューでドリブルが最終目的にならないようにしましょう。小さなころはドリブルをメインテーマとしつつも、ボールコントロールやシュート、パスにも自然と取り組めるメニューを行っていきましょう(例:Tr27 & Tr36)。
選手によってメニューを変える
チームによっては選手の体格差や習熟度の差によって同じメニューを行うことが効率的でないかもしれません。例えば、9~10歳から本格的にパスやボールコントロールに取り組んでいきますが、下記のTr8)3対1のメニューを始めからできる子もいればしばらく時間のかかる子もいます。同じグループにいる子どもの習熟度の差があまりに大きいと、まだできない子はミスで鬼役になってばかりで練習がつまらなくなり、できる子にとってはパスがつながらず物足りなくなってしまいます。まだあまりできない子がいればその子たちを集めて4対1から始め、逆に3対1が簡単すぎれば4対2のグループを作って時間で選手を入れ替えながら行ってもいいでしょう。さらにグループごとにタッチ制限やグリッドの大きさを変えて習熟度別にトレーニング効果の出やすい難易度のメニューを行いましょう。
フィールド・エリア・グリッドの大きさ
広くすれば攻撃側の認知・判断の時間は増えて難易度は下がり、狭くすれば難易度は上がります。しかし、あまりに狭くしすぎて攻撃側が勝手にミスをする設定にすると、守備側が意図的にボールを奪う状況がなくなり守備側のトレーニング効果や意識が薄れてしまいます。ぬるい守備が習慣となってしまうかもしれません。ある程度狭くすることにより認知・判断時間を限定したら、今度はタッチ制限を加えたり守備の人数を増やしたりするなど他の条件によって難易度を上げてみましょう。
タッチ制限
攻撃側に2タッチ以内や1タッチだけというタッチ制限を加えることにより、認知・判断の時間が減り難易度が増します。圧倒的な数的優位であれば攻撃側全員に制限を加えたり、フリーマンだけに制限を加えたりして攻撃側にテンポよいアクションを促します。絶対2タッチという条件はファーストタッチやパススピード、パスの距離をより意識させることができる制限です(例:Tr9)。
またボールを持ちすぎたり判断が遅かったりする選手に対しては、練習試合や試合などでも状況に応じて「2タッチ以内でプレー」というコーチングでアクションスピードを意識させて改善することができるかもしれません。
ただしタッチ制限を加えることによりドリブルの選択肢がなくなってしまいます。試合では数的同数の状況が増え、ドリブルで運んだりキープしたり仕掛けたりすることも必要です。タッチ制限をつけた数的優位の状況でのトレーニングだけでなく、試合に近い数的同数のメニューも行い、パスもドリブルもシュートも使い分けられるようにしましょう。
動く障害物(他の選手)
ディフェンダーのいない状況は比較的ストレスなくたくさんボールを触ることができるので、小さな子どものトレーニングやウォーミングアップに適しています。ディフェンダーがいなくても遊び形式や他のグループと入り乱れて動く障害物(他の選手など)を取り入れることによりわかりきった単純な反復作業だけでなく毎回異なったシチュエーションを発生させることができます。状況に応じたアクションが必要となり認知・判断を伴ったテクニックを学ぶことができます(例:Tr33&Tr49)。
数的関係(ディフェンダーの数)
ディフェンダーを入れる場合、人数が増えれば攻撃側の難易度は増します。ウォーミングアップやサポートメニューでは攻撃側が数的優位の状況で行うことにより、ディフェンダーのいない状況よりも難易度を上げて重点に関わるアクションを多く行うことができます。
「選手によってメニューを変える」で挙げたTr8(3対1や4対1)のように、ディフェンダーを1人いれるだけでも相手との駆け引きや戦術的な判断を取り入れることが可能です。ディフェンダーが1人で物足りないようであればディフェンダーも攻撃側も人数を増やすことにより、同じコンセプトで複雑性の増したメニューに発展できます(例:Tr8 → Tr7 → Tr17)。
試合ではフィールド内ではもちろんのこと(11対11)ボール際の局面においても数的同数の状況が多く発生します。ウォーミングアップやサポートメニューから徐々にディフェンダーの数を調整して難易度を上げていき、メインメニューやミニゲームではできる限り実戦に近い数的状況で学んだことにチャレンジしてみましょう。
フリーマン
「数的関係(ディフェンダーの数)」にもつながりますが、フリーマンは攻撃しているチーム(選手)の味方となるので、フリーマンの数を増やせば攻撃側の数的優位性は増して難易度は下がります。1人余ってしまった場合などは、フリーマンとして参加させて待ち時間を減らすこともできます。
攻撃側が数的優位にあるボールポゼッション系のメニューでは、フリーマンを入れることにより攻守の切り替えを強調したメニューにすることができます。ボールを奪われたらお終い、奪ったらディフェンダーを交代ではなく、「攻撃から守備」「守備から攻撃」がセットになるので素早い切り替えの習慣づけにつながります(例:Tr35)。
攻撃方向・ゴール
攻撃方向をつけるための一番わかりやすい設定はゴールをつけることでしょう。小さな子どもでも大人でも、得点する・失点を防ぐといったサッカーの最も重要な目的を忘れずにすむ設定です。
とはいっても、内容によってはゴールを使わなかったりキーパー練習や場所の関係でゴールを使えない時もあります。そういったときにパスやボールポゼッション系のメニューを行うとゴールの存在を忘れてボール保持が目的となってしまうことがあります。テクニックや戦術面の習熟度が高まりボール保持が安定するようであれば、攻撃方向をつけてゴールに向かって前進することも強調してみましょう(例:Tr8 → Tr14)。パスやボールポゼッションはあくまでも攻撃をするための手段です。
カウンターゴール
ゴールが2つあれば、得点する・失点する、攻守の切り替えなどサッカーの最も大事な要素が自然と含まれます。しかし状況によってはゴールを1つしか使えない場合もあります。その時にディフェンダーの目的地としてカウンターゴールを設定するだけで攻守の切り替えが発生します。カウンターゴールはミニゴールでもマーカーやコーンを2つ置いて作ったものでもかまいません。もちろん普通サイズのゴールでも大丈夫です。
ディフェンダーがボールを奪ったらお終いの設定ではなく、ボールを奪ったらカウンターゴールにシュート、ミニゴールやコーンゴールにパス、マーカー間をドリブル突破(ドリブルゴール)という設定にすれば、小さな子どもでも自然と攻守を切り替えてボールを追いかけます。Tr32はディフェンダー用に2つのパスゴールとドリブルゴールを設定しています。
ゴール・目的地の数
サッカーの試合では通常ゴールは2つですが、各チーム攻撃方向に2つ以上のゴール(ミニゴール、ドリブルゴール)を置くことにより、難易度を調整したり戦術的な変化を促したりすることが可能です。
Tr30は攻撃方向にミニゴールを2つずつ設置した4ゴールの2対2です。2つのゴールよりも攻撃側の難易度を下げるだけでなく、「右側にディフェンダー2人をひきつけたから空いている左側に攻める」などディフェンダーとの駆け引きを強調して小さい子供にも状況をわかりやすくすることができます。
Tr53はフニーニョもしくはミニフースバルと呼ばれる4つのミニゴールを使った3対3のミニゲームで、ゲームインテリジェンスや1人あたりのプレー時間を増やすためにドイツで開発されました。2019年7月からはドイツの一部地域・カテゴリーで公式戦の代わりとして導入されます。
Tr47はより実践的なシチュエーションで、攻撃方向にドリブルゴールを3つ設置したビルドアップの練習です。左・中央・右のエリアにいるディフェンダーの数を把握しながらビルドアップを行い、守備の手薄となったエリアを攻撃するためのサイドチェンジも促します
時間制限・2人目のディフェンダー
練習メニューの多くは試合の局面を切り取りフィールドの大きさや参加する人数を決めますが、試合の中ではいつまでも同じエリアに同じ人数の選手がいるとは限りません。例えばゴール前のエリアで1対1のトレーニングをする場合、ドリブルをしている選手は30秒も1分も時間をかけてゴールを目指すことができるかもしれません。しかし、実戦であれば相手チームはすぐに守備の陣形を整えるので、ゴール前のエリアで1対1の状況を作れるのはほんのわずかの間だけです。
Tr50はペナルティエリア周辺の1対1ですが、1対1が始まった瞬間、2人目のディフェンダーが追いかけてくる設定です。2人目のディフェンダーが時間的な制限となることで、ドリブルする選手に対して1対1の状況のうちに素早く仕掛けることを促します。もたもたしていたら1対2の数的不利になってしまいます。2人目のディフェンダーを置かなくても、「7秒以内にフィニッシュ」など練習メニューによって時間的制限を与えることによって素早いアクションを促すことにつながります。
フィールドの形
マインツ時代のトゥヘル監督は練習でフルピッチを使ったゲームを行ったことがないと言っています。「タッチライン際への逃げのパス」から「グラウンダーで斜めパス」に修正するためにフィールドのコーナーを切り取ったダイアモンド型フィールドでゲームを行いました。
またホッフェンハイムを3部からブンデスリーガ1部に連続昇格させたラングニック監督は縦に速いサッカーを目指して砂時計型やバナナ型のフィールドでゲームを行いました。
センターラインルール
幼児や小学生がミニゲームを行うと、数人の選手だけが攻めて、残りの選手は自陣ゴール付近に残りゲームへの関わりが薄くなることがあります。こうした状況を改善するために「ゴールが決まった時に味方全員がセンターラインを越えていなかったらノーゴール」というセンターラインルールを設定することができます。後ろでぼーっとしている子に毎回指示する必要もなくなります。
攻撃チームでも守備チームでもボールから遠い選手はやるべきことが曖昧になりがちです。後方や前方でパスコースを作るわけでもなく、セカンドボールを拾ったりボールを奪い返しに行くための準備もせず、そういった選手はゲームに関与しない状態とも言えます。
Tr52はフィールドをラインで区切り8つのエリアを作っています。ボール保持チームが変わるたびに1つのエリア内では攻守の切り替えが強調され、周辺のエリアの選手に対しても次の展開を予測や準備を促すことができます。
練習メニューのオーガナイズを工夫して効果的で効率的なトレーニングを行いましょう!