トップレベルの試合ではゴールの約80%がペナルティエリア内からのシュートによるものです。ドイツでは最も重要なペナルティーエリア内を3つのゾーンに分類し、各ゾーンから打たれるシュートに対してゴールキーパーの合理的な対策が決められています。GKコーチはもちろんのこと、GKコーチでなくても理解しておきたいポイントです。各ゾーンの特徴を理解して、適切なポジショニングやテクニックを身につけましょう!
ペナルティエリア内のシュートに対する7つのポイント
キーパーコーチにより考え方の違いはあるかもしれませんが、キーパーの基本な動きや構えは世界的に見てもほぼ統一されています。わずかな反応時間の中で無駄のない正しい動きを身につけるために常日頃からキーパートレーニングが行われているでしょう。以下、元ドイツ育成年代代表GKコーチで僕が所属したクラブのGKコーチも務めたエマが教えてくれたペナルティエリア内からのシュートに対する基本ポイントです。
- シュート前に必要なだけ距離を縮める
- シュート直前に構える(シュートを打たれる瞬間は移動しない)
- 重心を体のやや前方に置く
- 手足を肩幅くらいに開く
- 両手は腰の高さで体より前に出し、手のひらを内側(下側)に向ける
- 至近距離の場合、両手は腰よりも深い位置で、手のひらは体とは逆方向に向ける(上の写真)
- 確実にボールに触ることができる場合を除き、味方が相手ボールホルダーにプレッシャーをかけている場合は飛びださない
ペナルティエリア内の3つのゾーン
ドイツでは上図のようにゴールを基準にペナルティエリア内を3つのゾーンに分類されています。ゴールの中心からゴールエリアの角を通って引いた線よりも外側がゾーン1、ゴールの中心からペナルティアークとペナルティエリアが交わる点を結んだ線より外側がゾーン2、ゾーン2に挟まれた中央がゾーン3となります。
ゴールキーパーのテクニックだけを切り離して改善するのではなく、ゾーンごとの特徴を理解して状況に適したポジショニングやGKテクニックを身につけていきましょう!
ゾーン1(スタンディングゾーン)
ゾーン1はキッカーから見たらシュートコースが極端に狭く、このゾーンから打たれるシュートに対してゴールキーパーが適切なポジショニングを取ると守るべき幅が約2mになります(上図)。基本的には倒れる必要なくすべてのシュートを立ったまま手や足を使って対応できることから、ドイツでは「Standzone(シュタントツォーネ)=スタンディングゾーン」と呼ばれています。
ゾーン1の合理的なアイデアは、ニアポストから1歩前の2m幅の中間に立つことによりすべてのシュートコースを立ったままカバーできているので、確実に先にボールを触れる場合を除き、ニアポストを大きく越えてシュートを打つ相手に向かって飛び出さないことです。ニアポストから1歩前の2m幅の中間でシュートを待ちます。この時あまりにニアポストに寄りすぎるとファーポスト側のシュートコースが空いてしまい、ゴール前への横パスにも反応しづらくなります。
ニアポストを越えてシュートを打つ相手に向かって距離を縮めるとシュートに対する反応時間も短くなるので、シュートに反応できず股間を通されたりしてゴールを決められてしまう可能性も高まります(下図)。ニアポスト横にいることですでにシュートコースをカバーしている状態なので、飛び出さないほうがより長い反応時間を稼ぐことができます。
また、ニアポストよりも飛び出してゴール前に横パスを出されたときはゴール前でシュートブロックなどの対応もできません(下の写真)。
ゾーン1からのシュートは近距離からの場合が多いので、低く構えすぎるとゴール上方を狙われることもあります。キーパーは重心をやや前方においてリラックスして立ち、相手から大きく見えるように構えます。至近距離からのボールをキャッチすることはほぼ不可能なので、重心を前に置くことによりセカンドボールに反応しやすくなります。無駄に倒れたりジャンプしたりするとセカンドボールへの反応が遅れてしまいます。
キーパーはこの角度からのシュートを決められてはいけない。
ドイツサッカー協会キーパーコーチ ヨーク・ダニエル
- 守るべき2m幅の中間に立ち、シュートを待つ
- 立ったままシュートを止めることができる(無駄に倒れない)
- ニアポストに寄りすぎない(ファーが空く)
- ニアポストよりも大きく飛び出さない(反応時間が減る、ゴールを空ける)
- 低く構えすぎず、大きく見せる(上方を空けない)
- 重心をやや前方に置く
ゾーン2(ローリングダウンゾーン)
ゾーン2はゾーン3に続いてゴールが多く生まれる中央斜めに位置します。このゾーンから打たれるシュートに対してゴールキーパーが適切なポジショニングを取ると、守るべき幅を約3,5m(ゴール幅の約半分)に縮めることができます(上図)。基本的にキーパーが踏み込んでダイビング(ジャンプ)をする必要はなく、必要に応じてローリングダウン(倒れながらセーブ)やコラプシング(片足を抜いて倒れてセーブ)を行い、ゾーン1のように倒れずに対応できることもよくあります。
ドイツ語でstützen(シュテュッツェン)には「支える」、kippen(キッペン)には「倒れる」という意味がありますが、キーパーがシュート直前に「ステップを踏んだ足で体を支える」アクションと「倒れてセーブする」アクションにちなんで、「Stütz-/Kippzone(シュテュッツ・キップツォーネ)」と呼ばれています。
ゾーン2からのシュートに対してキーパーはゴールラインにへばりつくのではなく、ゴール中心から3~4m前に出て相手との距離を縮めることによりシュートコースを狭めます。ゴールエリアを飛び出すと頭上を越えるループシュートを狙われる可能性もあります。シュートブロック時には必要以上に倒れたりジャンプしたりせずにセカンドボールにも備えられるようにします。両サイドへのシュートに対してはローリングダウンで対応し、キャッチできない場合はサイドにはじいてこぼれ球を決められないように注意します。
味方が相手ボールホルダーにプレッシャーをかけている場合、確実にボールを奪える時を除き、ゴールエリアを飛び出さずにシュートやこぼれ球に備えます。不用意に飛び出すとこぼれ球が無人のゴールに入ってしまうなど不必要な失点につながる場合もあります。
- 守るべき幅は約3,5m
- 飛ぶ必要なくシュートを止めることができる
- ゴール中心から3~4m前に出てシュートコースを狭める
- サイドへのシュートにはローリングダウン
- 味方が相手ボールホルダーにプレッシャーをかけている場合、不用意にゴールエリアを飛び出さない
ゾーン3(ダイビングゾーン)
ゾーン3はシュートを打つ選手にとっては最も角度のある中央に位置し、ゴールの半数以上(52%)がこのゾーンからのシュートによるものです。このゾーンから打たれるシュートに対してゴールキーパーが適切なポジショニングを取ると、守るべき幅を約4mに縮めることができます(上図)。基本的にペナルティエリア内からのシュートに対しては反応時間も短くなるので、飛ぶ必要があれば1ステップで踏み切ってダイビング(1ステップダイビング)することになります。無駄なステップは時間のロスにつながります。高校生くらいになれば1ステップのダイビングで左上や右上の角を除いたゴールのほぼすべてをカバーすることができると言われています。
ドイツ語のabdrücken(アップトゥリュッケン)には「押して跡をつける」という意味もありますが、ダイビング前に強く足で踏み込むアクションにちなんで、「Abdruckzone(アップトゥルックツォーネ)」と呼ばれています。
ゾーン3からのシュートに対してキーパーはゴールラインにへばりつくのではなく、ゴール中心から3~5m前に出て相手との距離を縮め、少しでもシュートコースを狭めます。ゴールエリアを飛び出すと頭上を越えるループシュートを狙われる可能性もあります。
味方が相手ボールホルダーにプレッシャーをかけている時は飛び出しすぎずにシュートやこぼれ球に備えます。相手1人に対して2人がかりで対応するとこぼれ球が無人のゴールに入ってしまうなど不必要な失点につながります。
ドリブルする相手と1対1の状況では相手の約3m前で止まりボールに対応します。近づきすぎるとドリブルでかわされ、遠すぎるとシュートコースを狭めることができません。ファールをしたらPKになってしまいます。キーパーにとってはとても難しい状況ですが、ドリブルのスピードやタッチを見極めて冷静に対応しましょう。
- 守るべき幅は約4m
- ゴール中心から3~5m前に出てシュートコースを狭める
- 1ステップダイビング(無駄なステップを避ける)
- 味方が相手ボールホルダーにプレッシャーをかけている場合、不用意にゴールエリアを飛び出さない
- 1対1の状況では相手の約3m前で止まり対応