トレーニングコンセプト

さまざまなカウンターの概要【カウンター・ゲーゲンカウンター】

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ドイツでは選手育成の現場でもボールポゼッション系のトレーニングが増え、育成年代代表チームやA代表は高いボールポゼッション率を誇るようになりました。しかし、あまりにも早い時期からパス主体のトレーニングを行うことに対して”ドリブラーが育たない”、”ゴールに向かう意識が薄くなる”といった懸念の声も上がっています。実際にワールドカップ2018ではドイツ代表の非効率なボールポゼッション(1試合平均67%、グループステージ敗退)個で打開できる選手の不足が指摘されました。

とはいえ、ペップ・グアルディオラがバイエルン・ミュンヘンを指揮していた当時「ブンデスリーガはカウンターリーグだ」と語っていたように、国内リーグには縦に速いサッカーの傾向は残り、僕のドイツ人の友人にもボールポゼッションは退屈だと言う人がいます。一昔前は完成度の低いカウンターは”Hit and Hope(蹴って祈る)”と表現され否定的に見られる時代もありましたが、ラングニック監督のもと3部リーグからブンデスリーガ1部に連続昇格を果たしたホッフェンハイムクロップ監督のもとブンデスリーガ2連覇を達成したドルトムントの活躍により縦への鋭い攻撃は見直されました。洗練されたカウンターは現代サッカーにおける攻撃の重要な選択肢の一つです。

  15秒以上安定したボールポゼッションを行うより、5秒以内にボールを奪い
10秒以内にフィニッシュを目指したほうがゴールの可能性は高い

RBライプツィヒ スポーツディレクター ラルフ・ラングニック

カウンターの行われる状況

カウンターとは、ボールを奪ってから相手の守備が整う前に行う素早い攻撃です。ドイツ語では「Konter(コンター)=カウンター」や「Konterangriff(コンター・アングリフ)=カウンターアタック」と表現されます。

ドイツでは相手チームの”守備が整っている”、”守備が整っていない”という2つの状況を基準にして攻撃方法が2つに分類されます。相手のボールを奪った直後は相手チームは攻撃の陣形(幅と深さ)をとっているのでコンパクトな守備陣形ではありません。相手の守備がすでに崩れているのであれば、相手が守備を整える前に素早いカウンターでゴールを狙うことが最も効果的な選択肢と言えます。わざわざ手数をかけたりミスで時間がかかったりすると相手は守備の陣形を整えてしまいます

相手の”守備が整っていない状況”とは必ずしも相手の”数的不利”を意味するわけではありません。むしろ、カウンターでゴールが決まるシーンの多くは、相手が数的優位にも関わらず守備が整っていない状況です。例えば、センターバックが開いたままでいるとか、サイドバックが高い位置のままでいる状況です(図aの赤チーム)。

逆に、相手チームの”守備が整っている”状況(図bの赤チーム)ではコンパクトな守備ブロックが形成されているため、ボールを動かしたり人が動いたりして守備の乱れを生み出すための工夫が必要となります。

カウンターからゴールが生まれる割合

ドイツの指導現場では、明確な指示で規律ある動きを求める守備よりも、創造性を要する攻撃を(特に短期間で)チームに落とし込むことのほうが難しい作業とされています。ドイツサッカー協会のワールドカップ分析を見ても、質の高い攻撃の選択肢を持ち合わせるチームは毎回数チームに限られてしまいますが、2010年の南アフリカ大会では出場チームのほぼ全チームが洗練された守備を行っていると評価されていました。きっちり守られてからゴールを奪うのは一苦労するので、相手の守備が整うまでの一瞬の隙をついて行うカウンターは現代サッカーにおいて効率よくゴールを奪う重要な選択肢の一つです。2018年のロシア大会では全ゴールの半数以上がセットプレーかカウンターからによるものでした

ールドカップなどの国際大会では、カウンターからのゴールは全ゴールの約3割を占めていると言われています。トップレベルのチームは攻撃の選択肢の一つとして用い、なかなか精度の高い攻撃を行うことができない中堅や下位のチームは強固な守備とセットにすれば格上の隙をつくための武器として使うことができます。

カウンターはもはや格下チームだけの作戦やスタイルというわけではなく、すべてのチームが有効に使うべき攻撃の重要な選択肢の一つです。程度の差はあれどんなチームでもカウンターチームとしての一面を持っていると言えます。バルセロナと対戦したラモス監督(当時セビージャ)は「バルセロナを最も危険だと感じたのは、自分たちがボールを持っている時だった」と語っていました。状況に合わせてボールを保持することも素早いカウンターを仕掛けることもできることがトップチームの特徴と言えるでしょう。

カウンターからゴールが決まるまでの時間

ドイツではカウンターや素早い攻撃の練習を行う時に、1回の攻撃に制限時間を設けて行う場合がよくあります。制限時間は難易度やゴールまでの距離を考慮して設定されます。一般的にボールを奪ってから相手の守備が完全に整うまでは5~15秒とされ、このわずかな時間内にフィニッシュまで行けるかどうかがカウンターのカギとなります。

上の図はワールドカップ2014でボールを奪ってからカウンターによりゴールが決まるまでにかかった時間とパスの本数です。ボールを奪ったエリア(カウンターを開始する場所)をアタッキングサード、ミドルサード、ディフェンディングサードで分けて見ると、相手ゴールに一番近いアタッキングサードからのカウンターは平均で5秒、パスの本数も約2本でした。自陣に引き込んでからの典型的なカウンターは時間と手数が必要となるため、近年ではミドルサードやアタッキングサードから積極的にプレッシングを行いショートカウンターを仕掛けるチームも増えています。

カウンターの種類

カウンターと言えば自陣深くまで退いてから前掛りになった相手の背後を狙うシーンをイメージするかもしれませんが、ボールを奪った場所や関わる人数などによりカウンターを分類することができます。

クラシックカウンター

試合の大部分を相手に支配されてしまうチームやリードを守りながら前掛りに出てきた相手の隙を狙うチームに見られる最も典型的なカウンターです。自陣に引き込み、主にディフェンディングサードでボールを奪ってから前線の足の速い味方にボールを送り相手ディフェンスラインの背後を狙います。前線へのロングパスの精度や前線に残った選手のスピード、キープ力、突破力、決定力がカギとなります。

ワールドカップ2018のドイツ対韓国戦では、アディショナルタイムに失点して前掛りになったドイツに対して韓国がカウンターからダメ押しの2点目を決めました。攻撃参加していたGKのノイアーからボールを奪った韓国は(図c)、がら空きになっているドイツのゴール前にロングボールを出し前線に残っていたソン・フンミンが飛び出してとどめを刺しました(図d)。ノイアーからボールを奪ってゴールが決まるまでは約10秒、パスは1本でした。

コレクティヴカウンター

中盤やディフェンディングサードでボールを奪ったあと、4~5人の選手が流れるようにショートパスをつなぎながら仕掛けるカウンターです。チーム全体がコンパクトになってボールを奪ったあと、主にボール周辺の選手たちが勢いよく飛び出していくことにより人数をかけたカウンターが可能になります。少ないタッチ数でテンポよく前進することにより、相手チームは下がりながらも守備陣形を整える時間を確保することが困難になります。時間のロスを避けるために、スピードに乗った中での正確なドリブルやショートパス、判断力が要求されます。

ワールドカップ2018のベルギー対日本戦では、自陣からのカウンターによりベルギーが逆転ゴールとなる3点目を決めました。コーナーキックをキャッチしたGKのクルトワがデブルイネにボールを渡し、デブルイネはスピードに乗ったドリブルで前方にボールを運びました。この時ルカクが右サイドから中央にダイアゴナルランでディフェンダーを引き付け、サイドを駆け上がってきたムニエのスペースを作り出しました。デブルイネはムニエがスピードダウンしないように前方のスペースに優しいパス。最後はクロスに対してゴール前に走り込んだルカクがスルーをしてさらに後ろから走り込んできたチャドリが決めました。その後ろにはアザールも長い距離を走って準備していました(図eとf)。クルトワがキャッチしてからゴールが決まるまでは約12秒、パスは3本でした。

モダンカウンター

相手陣地やアタッキングサードで積極的にボールを奪いに行き、2~3人の選手が関わって相手ゴールに素早く向かうアグレッシヴなカウンターです。ボールを奪ったあとはゴールまでの距離が近いので素早くフィニッシュまで行ける可能性が高まります。統計的にはアタッキングサードを起点とするカウンターはミドルサードやディフェンディングサードの約半数となっています。ボールを奪いに行くタイミングやチームの連動性、状況判断がかみ合わずに前線からのプレッシングを突破されてしまうと、逆に自チームの背後を狙われてしまう可能性も高まります。

ワールドカップ2018のフランス対ペルー戦では、ショートカウンターからゴールを決めたフランスがペルーに1-0で勝利しました。アタッキングサードでボールを奪ったポグバがペナルティーエリア内に走り込んだジルーにスルーパスを出し、ジルーのシュートのこぼれ球を外から走り込んできたエムバペが押し込みました(図gとh)ポグバがボールを奪ってからゴールが決まるまでは約5秒、パス1本とシュートの跳ね返り1本でした。

ソロカウンター

ボールを奪った選手がそのまま一人でフィニッシュまで行ってしまう稀なケースのカウンターです。相手GKやDFラインのミスが発端になるケースが考えられますが、深い位置でボールを奪った選手がドリブルでボールを運び、相手ディフェンダーが他の選手に引きつけられて結果的に単独でフィニッシュにたどり着く場合もあります。個のスキルやプレッシャー下での判断力、決定力、強いメンタルが求められます。

ワールドカップ2018のアルゼンチン対クロアチア戦では、アルゼンチン代表GKカバジェロのパスミスをクロアチア代表FWレビッチが見逃さずに1タッチボレーで先制点を決めました。決勝トーナメント1回戦のフランス対アルゼンチン戦では、自陣でセカンドボールを拾ったエムバペがドリブルでディフェンダー3人をはがして相手ペナルティエリアに侵入。最後はアルゼンチンDFロホに倒されてPKを獲得しました。エムバペがセカンドボールを拾ってからPKを獲得するまでは約7秒でした。

ゲーゲンカウンター

カウンターに対するカウンター”のことをドイツ語でGegenkonter(ゲーゲンコンター)と言います。「gegen(ゲーゲン)=~に対して」と「Konter(コンター)=カウンター」という語から成り立っています。

カウンターのカウンターとは、相手のカウンターで自陣ゴール前まで攻め込まれたあとにボールを奪い返し、再び長い距離のカウンターを仕掛けることだけではありません。むしろボールを失った後すぐにボールを奪い返して相手のゴールに向かうアクションを指します。ボールを失ってからボール周辺の選手がすぐに奪い返しに行くアクションをGegenpressing(ゲーゲンプレッシング)と言いますが、ビルドアップなどでボールを失ったあとゲーゲンプレッシングですぐにボールを奪い返した時に相手チームがカウンターを仕掛けようと前掛りになっていることがあります。この時に逆にカウンター(ゲーゲンカウンター)を仕掛けるチャンスが訪れることがあります。ドルトムント時代のクロップ監督「ゲーゲンプレッシングは最も優れたゲームメーカーだ」と語っていましたが、当時のドルトムントはゲーゲンプレッシングによるボール奪取(図k)からゲーゲンカウンター(図l)を行い多くの決定機を作り出していました。

チームのスタイルと戦い方

国や地域のメンタリティー、クラブの哲学、所属する選手の質などによりチームのスタイルはさまざまで、対戦相手との力関係やスコアによって戦い方も変化します。

ホッフェンハイムを3部リーグから率いたラルフ・ラングニック監督はカウンターを重要視した戦い方を選択しブンデスリーガ1部への連続昇格を果たし、ブンデスリーガ1年目の前半戦を首位で折り返しました(最終的には7位)。15秒以上ボールを保持するよりも前線からプレッシングをかけてボールを奪ったほうがゴールチャンスを作りやすい」とリーグ内での自チームの立ち位置やスタイルを明確化し、2008年の全ゴールの50%がアタッキングサードからのカウンターによるものでした。

どのようなカウンターを行うことが多くなるかは、自チームのプレッシングスタイルや相手チームとの力関係、スコア、選手の質が関係してくるでしょう。例えば、相手のビルドアップを阻止するために前線から積極的なプレッシングをかける戦い方を選べば、ボールを奪ってから相手ゴールまで比較的短い時間で到達することができるモダンカウンターが多くなるでしょう。

相手に押し込まれてしまう状況やあえてリトリートして自陣に引き込む状況では、ボールを奪ってから相手ゴールまでの距離があります。走力と質の高いコンビネーションを持ち合わせる選手が数人いればコレクティブカウンターでカウンターにも人数をかけることができますが、それができなければクラシックカウンターが多くなり前線のスピードやキープ力のある一人の選手に多くをゆだねることになるでしょう。

状況によってはボールを奪ったあとあえてカウンターに行かずボールポゼッションでリズムをコントロールし、特にリードしている状況ではボールを動かしながら相手が出てきた瞬間に空いたスペースを使う選択肢も考えられます。ゲームプランを練り、必要となるカウンターの種類や攻撃の選択肢をトレーニングで準備をしてみましょう。

カウンターのトレーニング

カウンターのトレーニングではパスコースやランニングコースをコーチングにより落とし込みチーム全体でアクションを共有していく必要がありますが、重要なことは選手たちがミスを恐れずにチャレンジできる環境を作ることです。例えば、ある選手が相手チームにとって危険な縦パスを選択できたにもかかわらずテクニック的なミスが起きた場合、テクニック的なミスだけを非難すると選手たちがミスを恐れて攻撃的な縦パスにチャレンジしなくなってしまうこともあります。選択した判断が正しければ、テクニック的なミスを責めるよりも判断を褒めてあげることにより選手たちは積極性を失わずにチャレンジすることができるでしょう。試合の中では1秒もすれば閉まってしまう数mのギャップに勇気をもって鋭いパスを通す必要もあり、そういったプレーが毎回成功するとは限りません。だからと言ってミスを恐れて責任逃れのプレーに走れば、相手にとって脅威となるカウンターの機会をみすみす失ってしまうかもしれません。

”守備から攻撃への切り替え”と”攻撃から守備への切り替え”は表裏一体です。トレーニングの中でも一つのチームがボールを奪った瞬間カウンターを狙い、もう一方のチームはカウンターを防ぐためにゲーゲンプレッシングを行うことになります。オーガナイズ面で適度な難易度が設定されているにもかかわらずあまりにも簡単にカウンターからゴールが決まってしまうようであれば、ゲーゲンプレッシングなどの守備面を改善することによりトレーニングの質を高めていく必要があります。攻撃をレベルアップするためにはチーム内の守備をレベルアップする必要があり、レベルアップした守備を攻略することによりさらに攻撃をレベルアップさせていくことができるでしょう。

以下はカウンターの導入やメインメニューとして使えるいくつかのメニューです。少人数のシンプルなメニューでカウンターの概念を学び、段階的に試合で起こりうるにオーガナイズで発展させていきましょう。

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